ニューヨーク日記(1日目)平成29年1月19日

 今日からニューヨークに滞在である。往復してゐる人にとつては何でもない事だが、私はアメリカは久しぶり、しかも海外旅行は全て妻と一緒だつたのが今度初めての一人旅、英語はhelloとhiとthank youだけしか使へないから大変な試練だ(笑)勿論this is a penなら大いに使へますが使ふ機会がないんでね。

 月内一杯滞在する。

 ……私が、無私の人間、奉仕の人間である事がここにきて完全に禍になつてゐる。私に降りてゐる天命、才能を活かす暇もなく、国の事、他者の為の人生が習ひ性になり、私の持ち時間はどんどん減り続けてゐる。人々も私が何だかんだいつてその状況をどこかで許してり楽しんでゐるとでも錯覚してゐるのだらう。それも無理はない、一人の時の私の絶望と怒りと嘆きの激しさを知らないだけの事だ。

 私は自分の無私と奉仕を全て私自身の天命と才能に捧げる人生に方向転換しなければならない。人の為に全部投げ出す方が私にとつてはよほど楽だが、これからはさうしてゐては全てが駄目になる。国がどうなつても私はもう私自身の仕事を選ぶ。それが結局は百年後或いはそれ以上後に日本を残す為にできる私の最大の仕事に違ひないのだ。これは重要だから何とか私が引き受けるといふと結局は時間が全部埋まつてしまふ。断つても断つても毎日大変な状況。重大な事でも断らないともう駄目だといふ事だ。

 ニューヨーク滞在はその予行演習かも知れない。

 当地は今二十三時四十五分、カーネギーホールでバレンボイム指揮シュターツカペレベルリンによるブルックナーチクルス第一夜。酒も飲まず、ホテルで赤いきつねの夜食。もう寝る。明日は終日読書で夜コンサート。東京ではあらゆる中断、中断、中断が入つて何年も全く実現不可能だつた生活だ。NYの美術館周りの前にまづ思ふ存分読書するたつた一日の方が私にはギリギリの生存の為の必要事なのである。

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秘書室
文芸評論家・小川榮太郎秘書室です。